
AKANESASUが一橋大学商学部・山下研究室(担当教授:山下裕子氏)の学生チームとコラボレーション。美術館の収益向上を目的とした研究プロジェクトの一環として、クラウドファンディングを活用したアートTシャツ製作・販売を開始した。
このプロジェクトは「ミュージアムショップの商品を革新的かつ魅力的に進化させられないか」という問題意識からスタートした。倉敷の大原美術館所蔵の名画をモチーフにしたオリジナルデザインのTシャツを8種類用意している。
名画に現代的アレンジを加えたTシャツ。ラインナップの特徴は?

今回のクラウドファンディングでは、エル・グレコ『受胎告知』、モネ『睡蓮』、カンディンスキー『先端』、ホドラー『木を伐る人』といった大原美術館所蔵の名画をモチーフに、AKANESAU所属の2名のデザイナー(AYAO TAZAKI、Aoi)が現代的なアレンジを加えた全8種類のロングTシャツを制作している。
Tシャツの生地は6.6オンスの厚手仕様で、カラーはブラックとホワイトの2色展開。エル・グレコの『受胎告知』を大胆な稲妻と組み合わせたバンドT風の意匠や、モネの「睡蓮」を抽象的な幾何学模様で表現したものなど、作品へのリスペクトを保ちながら革新性と独自性を追求している。
プロジェクトを開始したきっかけと、ミュージアム・マーケティングの意義

本プロジェクトを主導するのは、一橋大学商学部・山下研究室4年の野村優(のむら・ゆう)さん。元々アートに関心を持っていたが、コロナ禍をきっかけに多くの美術館が財政的に苦境に立たされている現状を知り、学生の立場から何か貢献できないかと考え始めたことが研究の原点となった。
美術館には入館料のほか、寄付や物販収入、補助金など複数の収益源があるが、野村さんは中でもミュージアムショップに着目し、伝統的なアート作品と消費者行動を結びつける新しいマーケティング手法を探っている。海外の学術研究では「創造性や実用性を付加した商品がより多くの購買意欲を引き出す」という指摘があるが、日本の美術館における具体的な取り組みはまだ限られている。そこで、実際にアートTシャツを製作・販売することで、その効果を検証しようというのが本プロジェクトの狙いだ。

野村さんが所属する山下研究室では、学生が自分の興味や問題意識を起点に、最新のマーケティング研究をレビューしながらオリジナルのテーマを設定し、卒業論文を執筆する。山下教授自身もアートに造詣が深く、昨年のゼミではミュージアム・マーケティングにフォーカスして研究を進めたという。
「アートは国際的に見れば高成長している市場であり、ミュージアムは、パーソナルな美的価値を作る上で非常に大きな役割を果たしています。日本でもファン層が多様化し、素晴らしいコンテンツが増えていますが、収益性という意味で大きな課題を抱えています」と指摘する山下教授。
さらに、本プロジェクトの独自性を踏まえて次のように述べる。「世界の主要なミュージアムでは、ミュージアムショップが収益の重要な柱となっており、創造性豊かで質の高い商品が展開されています。一方で、日本では、美術館がデザイン性の高い商品を独自に企画して販売する例はまだ少ないのが現状です。この取り組みを期に、自己革新に取り組むミュージアムショップが増えればと思っています」

持続可能なミュージアム経営と、アートが日常に溶け込む世界を目指して
名画への敬意を守りつつ、革新的な要素を付加することで、ミュージアム自体の魅力を高める今回のプロジェクトは、今後のミュージアム運営の可能性を探る実験的アプローチとも言える。
クラウドファンディングを通じて集まった意見や販売データは、学術研究の成果としてまとめると同時、美術館やアート関連施設でのグッズ企画に応用する予定だ。革新的なアートグッズの開発が進めば、ミュージアムの収益向上だけでなく、アートが生活に溶け込む新しい文化も生まれるかもしれない。
Tシャツは多くの人にとって身近なアイテムだが、そこに名画を取り入れることで「日常」と「芸術」との距離感が一気に縮まるという意義も大きい。アートを愛する人も、普段はあまりアートに馴染みがない人も、この機会にぜひ一度手に取ってみて欲しい。
プロジェクト詳細
クラウドファンディング終了:2025年3月9日
リターン発送:2025年3月下旬(予定)
寄付実施:2025年3月21日(予定)
取材・執筆・写真:Mizuki Takeuchi
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